水耕栽培の栽培水槽方式は以下で説明するとおり、いくつかの種類に分けられる。
これらはビニールハウスの中で大量生産することを前提とした産業用水耕栽培向けに考えられたものであるが、簡素化・小型化することで家庭でも水耕栽培が可能となる。
家庭用の水耕栽培キットもたくさん売られているが、水耕栽培装置は自作することによって初期費用を抑えることができるよ。
DFT方式(deep flow technique)
栽培水槽の端に絶えず養液を流し込んで、反対側の端からあふれた養液を別の槽に受けて送水ポンプで汲み上げて、再度栽培水槽に流し込む方式で、水流により絶えず水面が空気と接するので、効率よく酸素を取り込むことができる。
この方式の利点は、水流を得るとともに栽培水槽の水位を一定に保ちやすいことと、送水ポンプが故障しても水槽に養液が溜まっているので、すぐに植物がしおれることがないところ。
欠点は根が詰まってくると、水流が均等に流れにくくなり、部分的に酸素不足になりがちなところ。
ポンプに詰まる異物を捕集するストレーナーは必要。
NFT方式 (nutrient film technique)
浅い傾斜のついた栽培水槽の端に絶えず養液をせせらぎのように流し込んで、傾斜の下側からあふれ出た養液を別の槽に受けて、送水ポンプで汲み上げて、再度栽培水槽に流し込む方式。
この方式の利点は、根っこの隅々まで養液が滞留することなく流れ、循環が速いため、養液が空気と接する時間が長くなり、酸素を取り込み易いところ。
欠点は、送水ポンプが故障すると養液が途絶えて、すぐ植物がしおれる恐れがあるところ。また、環境変化により養液の温度が変化しやすいところ。(養液があたかも水耕栽培装置の冷却水のように循環するため。)
ポンプに詰まる異物を捕集するストレーナーが必ず必要になる。
噴霧方式
植物の根に養液を霧状に吹きかける。
この方式の利点は、酸素が取り込み易く、植物の成長が早いところ。
欠点は、噴霧ポンプの故障や噴霧ノズル目つまり等で、植物が直ちにしおれる恐れあるところ。 また水分が蒸発しやすいので、養液の濃度管理が難しいところ。
ポンプと噴霧ノズルに詰まる異物を捕集するストレーナーが必ず必要になる。
最初に試した自作水耕栽培
たま吉が最初に試みたのは、下図のような方式で、大型衣装ケースの中にプラスチックのざるを固定し、ざるの中にはハイドロカルチャーで使用するハイドロボールを入れ、そこにトマトを定植するものだよ。
衣装ケースは半透明なので、直射日光による温度上昇と藻の発生をなくすため、銀色の保冷シートで巻き付けた。
養液は、送水ポンプでくみ上げられて、ざるの上に絶えず注がれ、ハイドロボールに行き渡った後、ざるの底から抜けて衣装ケースの下に溜まり、異物除去用のストレーナーを通過して、再び送水ポンプに戻っていく水循環方式だったんだ。
この方法は、養液をかけ流しているという点では、NFT方式に近い方式だけど、根っこが宙吊りになった部分に養液がふりかかる点では、噴霧方式に近い方式で、比較的酸素の取り込み量が多い方式になるね。
初めて試みた水耕栽培だったけど、開始直後は恐ろしいほどトマトの成長が早いのでびっくりしたよ。
思えばこれが水耕栽培にハマったきっかけだったのかな。
途中ポンプが詰まったり、水温が高くなったりといろいろトラブルがあったよ。
結局、ある程度まで成長した後、葉がぜんまいのようにくるくる巻きになる症状が発生し失敗に終わってしまったんだ。
くるくる巻きになった原因は、養液が濃過ぎたために違いないと今では確信しているよ。
その時は何もわからず、規定濃度にしていたんだけど、酸素の取り込み量が多い方式の場合、養液中の水分の蒸発が激しかったり、宙吊りになった根の部分の養液のかかり具合にムラがあると、局部的に養液の濃度が高くなってしまったりするので、規定の濃度の半分ぐらいの濃度で始めたほうが管理しやすいんだ。
またこの方法は、養液をためる衣装ケースの中に、根っこのベッドであるざるを仕込んであるので、2重構造となっており、外側の容器の大きさをある程度大きくするか、縦に2段積みにする必要があるので、いずれにせよ装置が大きくなり場所を取ったり、移動や掃除等の手入れが難しかったりするよ。
現在の水耕栽培装置
上記の方法で育てたトマトは、成長すると根がどんどん伸び、あっという間にざるからはみ出し、下の養液の中にまで進入してきた。
この時に実感したことは、根が養液の中に完全に水没していても、養液に溶存酸素さえあれば、植物は何の問題もなく生育するということなんだ。
そうなってくると、ハイドロボールを入れているざるの必要性があまり無いように思えてくる。
ざるの部分が無くて、容器内を全部養液で満たせば、根の広がる範囲を容器の容量いっぱいに取れるし、容器の構造も単純化できるよね。
この場合、容器の大きさがあまり大きいと耐久性が必要になるので、衣装ケースでは強度が持たないよ。
それに、地面に置く場合は気にすることはないが、ベランダに置く場合は長期荷重がかかり、木造建築の場合、徐々に梁が曲がったりすることもあり得るので、たま吉の場合、必要最小限の容量20Ⅼとすることにしたよ。実際入れる養液の量は、溢れないよう15L程度になるね。
たま吉の場合、欲張って最終的にはこのタンクが3台に増えてしまったんだけどね。 タンクは木で作った架台に乗せているけど、架台の片脚がちょうど一階の壁の柱の位置に来るようすることで、少しでも梁に負担がかからないように配慮しているつもり。
さて、根っこを全て養液で満たす場合、一番重要な問題は養液中の溶存酸素をどうやって維持するかなんだけど、これについては、エアーのブクブク(エアーレーション)を激しく行えば、撹拌作用で、水面からある程度酸素を溶け込ますことができるだろうと考えたよ。
それにエアーレーションのいいところは、ホースを容器の底に突っ込むだけの単純な構造であることと、エアー配管を分岐するだけで、1つのエアーポンプで複数の水耕栽培を行えるところだよ。
これに対し、水循環式で例えばトマト3本を1個の送水ポンプで育てるには、相当大きな細長い容器にトマト3本を並べて育てるか、3つの容器に分けた場合は、高低差をつけて上段から下段容器に水を順にかけ流す複雑な構造になってしまうよね。
さらに水循環式の場合、ポンプ本体が養液に水没しているため、送水ポンプ自体の電気的発熱量で水温が上昇し溶存酸素が減る懸念もあるけど、エアーレーション式であればエアーポンプは完全に水循環とは無関係な場所に設置されているのでその心配はないよ。
構造が単純になり、容器も小さくなれば、必然的にメンテナンスも簡単になってくるぞ。
最終的には下図のような誰でも思いつく単純な構造に行き着いたんだ。
【 エアレーション方式】
このシステムにおけるエアーノズルは、エアーストーンのように細かい空気の粒を出しているわけではないので、泡で酸素を溶け込ますというより、ブクブクで縦の水流を起こして水面を撹拌し、水面から酸素を取り込むことを主目的しているよ。
(ただエアーストーンにお金をかけたくなかっただけとも言えるけどね)
ミスト散水の役割は、綿布を濡らして気化熱を発生させる以外に、葉を直接濡らして冷却したり、乾燥を抑えてナスビに葉ダニが発生するのを抑えたり、ナスビの実の乾燥を抑えたりするためでもあるんだ。
雨の時は、コックを閉めてミスト散水を停止させてるよ。
今後について
根が成長してくると、エアレーション式はどうしても水流が弱くなる部分が生じるため、エアーポンプをもっと吐出容量の大きい浄化槽用(静音タイプ)に買い換えること考えてるよ。
だけど価格が1万円ぐらいするので、それに見合う収穫があるかを考えると悩ましいよね。
あとは、給水を自動化することかな。
真夏は1日水を補給しなかっただけで、水位が半分ぐらいに減ってしまうので、家を留守にするときは、タンクを日陰に移動させたり、水を満タンにしてから出かけたりと気を使わなければならないからね。